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日本コミュニティ心理学会第7回大会報告

テーマ:「多領域で支える暴力被害者支援を目指して」
開催場所:立命館大学衣笠キャンパス
開催日時:2004年6月25日(金)・26日(土)・27日(日)

 

みなさまのご協力を得て、2004年6月25~27日、京都、立命館大学にて、日本コミュニティ心理学会第7回大会を無事、終了することができましたので、お礼かたがた、ここに報告させて頂きます。講演とシンポジウムの内容に関しましては、追って、学会誌の方で紹介させて頂く予定です。
講師、シンポジストとしてご協力頂きました先生方、発表・参加などでご協力頂きましたみなさま、スタッフとして関わって頂いたみなさま、学会事務局の方々、その他にも、多くの方々のお力を得ましたこと、心より感謝いたしております。本当にありがとうございました。今回、メアリー・ハーベイ博士を招くにあたっては、日本学術振興会の、オリバー・フォークス氏を招くにあたっては、立命館大学の助成金を頂きました。立命館大学応用人間科学研究科、女性ライフサイクル研究所、およびNPO法人FLC安心とつながりのコミュニティづくりネットワークには後援団体として、物的・人的資源を提供してもらいました。お礼申し上げます。

第七回大会長 村本邦子(立命館大学)

 

 第7回大会は、去る6月25~27日と盛況のうちに開催されました。参加者は、会員62名、学生26名、非会員43名の計131名、懇親会参加者70名、ワークショップ30名と、会場は熱気にあふれました。
今大会では、ジュディス・ハーマンの『心的外傷と回復』で有名になったボストン・ケンブリッジ病院VOV(暴力被害者支援)プログラムから、総指揮者であり、コミュニティ心理学者でもあるメアリー・ハーベイ氏と、弁護士のオリバー・フォークス氏を招き、25日はワークショップ、26日は、講演、シンポジウムを開きました。日本側からも、この領域で経験が豊富な冨永良喜氏、羽下大信氏、中村正氏を交えて、活発な議論が展開されました。いずれも、非常に実践的な内容で、コミュニティでの被害者 支援に関わるものにとって、とても有意義なものとなりました。
また、27日は、会員による口頭発表(12名)とポスター発表(11名)を行いましたが、研究から実践まで、充実した内容で、熱い議論が交わされました。

事務局長  西順子(女性ライフサイクル研究所)


ゲストについて

7workshop

(大会準備委員とシンポジスト)

メアリー・ハーベイ氏
ケンブリッジ病院被害者支援プログラム総責任者
ハーバード大学医学部臨床心理学助教授
コミュニティ・サイコロジスト

オリバー・フォークス氏
ケンブリッジ病院被害者支援プログラムコンサルタント
弁護士

 

 

 

第7回大会プログラム内容

6月25日(金)10:00~17:00    ワークショップ

トラウマの影響・回復・レジリエンシー査定のための多次元アプローチ
~MTRR/MTRR-I、2つの新しい尺度の紹介~

メアリー・ハーベイ博士
ケンブリッジ病院被害者支援プログラム総責任者
ハーバード大学医学部臨床心理学助教授
コミュニティ・サイコロジスト

ハーベイ博士の主な著作
●Koss, M. and Harvey, M. The Rape Victim: Clinical and Community Interventions. (Second Edition). Newbury Park, CA: Sage, 1991. (『レイプ被害者~臨床的コミュニティ介入』)
●Harvey, M. An ecological view of psychological trauma and trauma recovery. Journal of Traumatic Stress, 1996, 9 (1), 3- 23.(「生態学的視点から見たトラウマと回復」
※この論文は日本語で読めます
http://www.flcflc.com/study/article/article01/07.html
●Harvey, M.R., Liang, B., Harney, P.A., Koenen, K., Tummala-Narra, P. and Lebowitz, L.A multidimensional approach to the assessment of trauma impact, recovery and resiliency:Initial psychometric findings. Journal of Aggression, Maltreatment and Trauma, 6 (2), 87-109. (「トラウマのインパクト、回復、レジリエンシーへの多次元アプローチ」)
●その他多数

6月26日(土)13:00~14:30     基調講演

メアリー・ハーベイ博士
暴力被害者を支えるコミュニティの生態学的架け橋
~ケンブリッジ病院暴力被害者支援プログラム(VOV)に学ぶ~

6月26日(土)14:45~17:45     シンポジウム

コミュニティの協働による家庭内暴力への対応

<シンポジスト>
メアリー・ハーベイ(上記参照)
オリバー・フォークス(弁護士、ケンブリッジ病院被害者支援プログラムコンサルタント)
冨永良喜(兵庫教育大学)
中村正(立命館大学)
<司会>
村本邦子(立命館大学/女性ライフサイクル研究所)

 

6月27日(日)9:30~11:30 口頭発表 第一分科会・午前の部 司会・高畠克子(武庫川女子大学)
A-1) 「〈被害-加害関係図〉作成の試み」 9:30~10:05
草柳和之(メンタルサービスセンター)
A-2) 「DV被害を受けた子どもと母親への支援~NPOによるコミュニティ介入」 10:10~10:45
村本邦子(NPO法人FLC安心とつながりのコミュニティづくりネットワーク/女性ライフサイクル研究所)
安田裕子(同NPO/同研究所) 渡邉佳代(同NPO/同研究所)
A-3) 「グローバル・コミュニティ心理学の可能性:
その研究,実践と理論の異文化間妥当性のモデルに向けて」
10:50~11:25
笹尾敏明(米国・イリノイ大学シカゴ校、国際基督教大学)
安田節之(米国・ペンシルベニア州立大学大学院)
6月27日(日)9:30~11:30 口頭発表 第二分科会・午前の部 司会・久田満(東京女子医科大学)
B-1) 「小学校でのグループプログラムにおける教室内の相互作用過程と気付き
-学校における第3者の役割に注目して」
9:30~10:05
荊木まき子(立命館大学大学院)
B-2) 「大学教育におけるコースマネジメントシステムのインパクト評価
-コミュニティ感覚と学習効果の関連性から-」
10:10~10:45
安田節之(ペンシルベニア州立大学大学院)
B-3) 「NPO法人による地域情報化とまちづくり
-にんじんネット協議会の活動への参与観察を通して-」
10:50~11:25
石盛真徳(京都光華女子大学人間関係学部)
6月27日(日)13:30~15:25 口頭発表 第一分科会・午後の部 司会・原裕視(目白大学)
A-4) 「訪問相談という援助形態の利点-不登校生徒への実践から-」 13:30~14:05
佐野隆子(金沢市スクールカウンセラー) 塩谷亨(金沢工業大学)
A-5) 「ある中学校におけるコミュニティ心理学的介入の試み(2)
-拠点校から近隣小学校への拡がり-」
14:10~14:45
土井一博(茨城県カウンセリングアドバイザー)
A-6) 「〈SHGに溶け込むことが困難なひきこもり者〉対象のサポートグループ活動
-セルフヘルプ・グループとの連携を通して-」
14:50~15:25
板東充彦(九州大学大学院人間環境学府)
6月27日(日)13:30~15:25 口頭発表 第二分科会・午後の部 司会・平川忠敏(鹿児島大学)
B-4) 「コミュニティによる“広義の心理的ケア”を促進する心理士の役割
-介護老人保健施設での事例から-」
13:30~14:05
渡辺由己(吉備国際大学社会福祉学部)
B-5) 「日本の大学生におけるコミュニティ感覚:文化的要因からの検討」 14:10~14:45
池田満(国際基督教大学) 笹尾敏明(国際基督教大学)
B-6) 「高校生は規範意識が乱れているのか?-現代青年の規範意識の年代差から」 14:50~15:25
角谷詩織(お茶の水女子大学大学院) 無藤隆(白梅学園短期大学)
6月27日(日)ポスター発表・展示 9:30~15:30・質疑応答 15:30~16:00
C-1) 「がんで手術を受ける人々の手術前・後の心理的状況に関する質的研究法による検討」
白尾久美子(浜松医科大学) 山口桂子(愛知県立看護大学) 植村勝彦(愛知淑徳大学)
C-2) 「地域子育て支援グループにおける個人とグループの成長過程
-中年期ボランティアのインタビューからの検討-」
立石陽子(お茶の水女子大学人間文化研究科) 無藤隆(お茶の水女子大学)
C-3) 「家族とボランティアがつくりだす自閉症児への余暇活動サービスの形成過程(2)
-行動コミュニティ心理学における〈再現可能性〉の検討-」
大橋智(明星大学大学院人文学研究科)
C-4) 「日本・台湾の学校コミュニティと子どもの満足感」
葉秀玲(お茶の水女子大学) 伊藤亜矢子(お茶の水女子大学)
C-5) 「養護性(ナーチュランス)を促進する保育体験プログラムの効果」
藤後悦子(保育研究所)
C-6) 「滞日日系ブラジル人のメンタルヘルスに関する臨床・コミュニティ心理学的研究の試み」
杉岡正典(広島大学大学院教育学研究科)
C-7) 「精神保健福祉領域における臨床心理学的地域援助の独自性-心理学と福祉学の協働を目指して-」
上田将史(堀ノ内病院 心の健康相談室)
C-8) 「中学校教師における連携・チーム援助に対する認識」
大畠みどり(豊島区立教育センター)
C-9) 「高齢者女性を対象とした〈化粧プログラム〉の実践的研究」
田路美子(新座市家庭児童相談所)円谷久美(社会福祉法人わかくさ会児童養護施設若草寮)小澤閲子(立教大学社会福祉研究所)堀内理沙・新村陵子(立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科)瀬戸サヤノ(医・美・心研究会メイクセラピスト講座)
C-10) 「精神障害者就労支援におけるコーディネイターとしての役割
-ある地域生活支援センターにおける実践報告-」
大林裕司(目白大学大学院心理学研究科)
C-11) 「ロジャーズ(Rogers,C.)とコミュニティ心理学」
降旗志郎(清泉女学院大学
第7回大会 参加記
■新 雅子 私塾「復帰塾」

今大会は関西で始めて開催されました。今まで関西にはコミュニティ心理学に関心を持つ人が少なかったのですが、大会長を務められた村本邦子さんが女性サイクル研究所と立命館大学大学院での活動を通して有為な人材を育成されてきたことによって、学会開催がようやく可能になったのです。
その上、東京在住だった高畠克子さんが武庫川女子大学大学院で教鞭を執られるようになって、コミュニティ心理学が関西に少しずつ根を下ろしつつある状況となりました。このような時期に彼女が学会長に就任されたことは関西にとっても、女性にとっても記念すべきことだったと言えるでしょう。
大会の中身について、初日に行われたメアリー・ハーベイ博士によるワークショップは不参加のため詳しいことは不明であるものの、2日目の彼女の講演とオリバー・フォークス弁護士等も含めたシンポジウムは表題の「~多領域で支える、暴力被害者支援を目指して~」を意識したもので、非常に興味深かいものでした。私の場合は今まで被害者支援に縁がなく、未知の内容が多かったのですが、最近かかわる機会を得て、多領域にまたがって対応する必要性を痛感するだけに、コミュニティ心理学的アプローチの有効性を改めて思い知ることができました。3日目最終日は第一分科会に参加しました。DV被害を受けた子どもと母親への支援について、一般的な認識が不十分ではあるが、その実態は深刻であること、支援環境の整備へ向けて多大な努力が必要であることを実感しました。また、スクールカウンセラーの実践報告も、同じ立場だけに興味深かく聞くことができました。
最後に、大会準備から当日の運営に至るまで、立命館大学大学院及び女性ライフサイクル研究所等のスタッフの多大な努力のお蔭であったことをここに明記し、心から感謝申し上げます。

2004/09/09
■太田 裕生 目白大学大学院

コミュニティ心理学会大会への参加は今回で2回目です。初日のワークショップには仕事の都合で残念ながら参加できませんでしたが、大会には両日ともなんとか参加することができました。とは言え、市内散策などをしていたために遅刻してしまい、めまぐるしい天気の変化で汗だくになって到着した時には、既に講演が開始されていました。
講演・シンポジウムで最も印象に残ったことをひとつ選ぶとすれば、それは多様性についてでしょう。大会プログラムに「多領域で支える…」とあるのですから当然かも知れませんが、シンポジウムとその後の質疑の内容はもちろん、それに付随して自分の回りから聞こえてくる囁きの内容は、多様なフィールドというだけでなく、多角的な関心を持った人々がそこに集っている事を証明していました。
また特に、コミュニティないしは非専門家との対称な協働などの点で、自分自身の問題意識に響くものがありました。研究発表の多くが実践に密着したものであり、その有用性は高いものと思われ、特に自分自身のフィールドでもある学校コミュニティとその背景に存在する地域コミュニティの問題に関連する研究発表には多くの示唆を頂きました。反面、コミュニティ心理学を他の心理学領域・実践領域から際立たせている独自の理論展開に言及されるものが少ないように思われ、この点についてだけ、少々考え込んでしまいましたが、・・・これは他人のことを言っている場合ではありませんね、自分もやらないと・・・。そうした訳で、その後、他分野にも首を突っ込んだり洋書の読み込みに勤しんだり、さらには手を付けていなかった方法の実践導入を試みたりする日々となりました。個人的には、なにやら動機付けを頂いた大会だったように思います。ありがとうございました。

2004/09/02
■小杉 幹子 目白大学大学院心理学研究科現代社会心理専攻

先ず、院生になって初めての学会への参加なので期待と不安で一杯だったのですが、院生の集いを通して他大学の院生と交流を持てたことや、懇親会では他大学の先生方も優しくお声を掛けてくださったことに感謝申し上げたいと思います。目白大学大学院の授業は夕方から夜に開講されるため、普段は、学友と学問について語り合ったり、議論をしたりすることはほとんどなく、また、心理学の学問的特性から同じ専攻であっても専門領域に違いがあり、授業以外で話すこともあまりなかった私にとって他大学の院生との交流は、同じ院生として悩みを共有し、「コミュニティ心理学」をテーマに語り合うことができ、とても充実した二日間でした。残念ながら、同じ専攻の同期の仲間と同行することが出来なかったのですが、できれば、自己の学習の確度を修正、乃至は深度を高め、修論の執筆のためにも授業やゼミを共にする仲間と学会で学んだことをテーマに討論したかったと思いました。
また、分科会も興味深く拝聴させていただき、A-3「グローバル・コミュニティ心理学の可能性:その研究、実践と理論の異文化間妥当性のモデルに向けて」では、改めて『コミュニティ』とは何か? ということを突きつけられたような気がしました。また、自分の中ではまだ漠然としたままで、あまり理論、研究、実践を具体的に考えていなかったのですが、日常用語としてもなじみの深くなったこの言葉にどんな意味を持たせ、どんな機能が備わればいいのか、自分はその中で何を研究したいのか、また、それは実践可能なのか等々、自分の足元の地盤の緩さを思い知らされ、私の今後の研究対象として、さらには実践領域として実現可能な『コミュニティ』の射程距離を考えるよいチャンスになりました。
また、A―5「ある中学校におけるコミュニティ心理学的介入の試み?――拠点校から近隣小学校への拡がり――」での実践は、SCがネットワークを構築する際にSC自身のキャラクターが介在することを推測させるような(巧みに相手の懐に飛び込む)印象を受け、今後のSCのあり方だけではなく、資質を示唆するものであったのではないかと感じました。 他にも、拝聴したいテーマは多々ありましたが、どちらか一方しか参加することが出来なかった(同行の仲間がいれば後で報告し合えたのでしょうが)のが残念です。
そこで、今回参加させていただいて新たにいただいた研究テーマがあります。キーワードは『花咲爺さん』です。全体を通して感じたのは、対人援助において、対象者を中心にして多領域から支えることは勿論、対象者を中心とした対個人、対集団という援助だけではなく対象者の生活の場にただ存在する人、いうなれば対象者に関心を持たない、または関係しない人々をも含む社会のメンバーすべてを援助のサークルに巻き込むような支援体制の構築です。つまり、無関係、無関心な人々という枯れ枝に援助者の一人であるという認識を持っていただくという花を咲かせることのできる『コミュニティ』をどのように構築し機能させていくか、また、その中でどのような役割を心理職が果たせばよいのかを追究していきたいと思います。

2004/09/02
■窪田 容子 女性ライフサイクル研究所

今大会は、VOVプログラムの創始者である、メアリー・ハーベイ氏の講演が聞けるということで、とても楽しみにしていました。VOVの沿革についての話では、20年前、政治的にも経済的にも非常に脆弱な形で始まった頃から、今日のように広く援助を行える体制になるまでに、レイプクライシスセンター、犯罪被害者のアドボケーター、周辺に住んでいる支援をしたいと思っている人たち、たくさんの草の根的なグループとつながっていくことが大きな力となったということでした。VOVが行っている援助アプローチだけでなく、VOVが創られ発展してきた過程そのものが、コミュニティの資源、強みを生かしていく介入となっていったのであろうことが、素晴らしいなと思いました。
VOVの、コミュニティの持つ知識、スキル、力などを生かし、足りないところを補っていく、障害があっても強みの方に焦点を向けていくというコミニュティへの関わり方は、カウンセリングの中で、個人に対して行っている関わりと似ており、カウンセリングを通して得てきた知識や技術は、コミュニティアプローチに、もっといろいろな面で応用していけるのではないかという思いがしました。
シンポジウムでの、オリバー・フォークス氏の弁護士の立場からの連携についての話、冨永良喜氏の被虐待児へのアプローチについての話、中村正氏の家庭内暴力の加害者へのアプローチに関わる専門家の連携について話は、いずれも大変、興味深く勉強になりました。私自身、FLC安心とつながりのコミュニティづくりネットワークというNPO法人に関わっており、この先の活動を発展させていくためのヒントを得ることができ、とても充実した時間が過ごすことができたと思います。

2004/09/02
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