other 上手幸治(九州大学大学院)

第6回大会 参加記

教育講演

笹尾先生の講演を聴いて

上手幸治(九州大学大学院)

まず最初に、笹尾先生がいかようにしてコミュニティ心理学に関心を持ち、そして研究者への道を歩まれるようになったか、我が身を振り返りながら楽しく拝聴させていただきました。そのプロセスはまさにコミュニティ心理学者のそれであり、色々なプロジェクトや機関とコミットされています。やはりコミュニティ心理学者は個人の内的世界を大切にしつつも、社会性を持って個人の外世界とつながっていく必要があるのだろうと痛感しました。それは SCARA Biennial Conferences の中にも反映されています。発表やトピック等、非常に多岐にわたる内容で、人と環境の最適な適合を目指す学問領域の面目躍如という感じでした。当然、その出席者もフレンドリーで外交的。SCARA Biennial Conferences に出席された大学院生の話からも、それは伺われました。なにより場所がラスベガスというのが良いですね(あの資本主義経済の権化の如きラスベガスではないところが特に…)。因みに、日本コミュニティ心理学会もその系図に従っていますね。温泉に入って心身ともにリラックスして、わきあいあいと人の幸福について語り合う。自分が幸せでないと人の幸せを考えにくい、と個人的には思います。
そしてなにより私が感動したのは、「あなたの賜物(gifts)?」についての話。誰もがそれぞれの個性、能力、資質を持っていて、その誰もが切り捨てられることなく生きていけるために、互いに相手を慮って援助しあう。コミュニティ心理学者だけでなく、誰もが自分の賜物を考えることができれば、とても住みやすい世の中になるのになあ、と思いました。それは私が個人的に好きなアドラーも述べています。人が幸福に生きていくためには「共同体感覚」が必要だということ。この「共同体感覚」とは「人類の関心への関心」あるいは「他者の目を持って見ること、他者の耳を持って聞くこと、他者の心を持って感じること」と一般的に言われています。しかもこの「共同体感覚」とは「生まれつきのものではなく、意識的に発達させられねばならない生得的な潜在能力」ということです。私達は、この生得的潜在能力を有して生まれてきたのですが、周囲の不適切な関わりによっては、「共同体感覚」は上手く育っていかないのでしょう。この状態にある人は勇気が挫かれているので、私達はなによりエンパワーしなければいけないのです。皆がそれぞれ将来を作り上げていくという共同作業をしているのだと思います。そのプロセスを諦めることなく、自らに与えられた課題を受けとり、それを実行に移せるだけの賜物に気づき、育てていく。そうした援助がコミュニティ心理学者には必要とされるでしょう(もちろん皆ができればそれにこしたことがないわけですが…)。

«副会長 安藤延男
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